会社を辞めるとき、退職届を出すべきか退職願を出すべきか悩みどころだろう。また「いち早く辞めたい」「今すぐ効力を持つものはどちらか」と考えている方も多いと思う。結論から言うと、その期待の効力を持つのは退職届。
退職届は会社に提出して、役員や上司、人事部に受理された時点で退職が決定となり、また撤回もできない。一方的に郵送等で送りつけ、その瞬間から会社に行かなくても退職手続きとしては効力を持つ(※もちろんモラル・マナー違反)。
最近では退職届すら出さず、メールで「辞めます」と伝えて辞めてしまう人も多いのだとか。確かに会社を辞める上で社内上必要な書類というのは無い。会社としては保険や税金、退職金関係の手続きが必要になるが、退職者は基本的にフリー。
対して退職願は「会社をいついつに辞めようと思っています」という意思表示で、退職に対する申し込み書の意味を持つ。そのため受理されても、上役や上司から承諾されるまでは撤回できる。
このように「届」と「願」では意思表示の重さや効力が全く異なるが、それはあくまで法律上の机上の空論に過ぎず、実際の現場においてはそんなにうまくいくわけもない。ここでは「実際のところどうなの?」「どっちの方が辞めやすいの?」という現場のことについてまとめていこうと思う。
退職届と退職願の違いについて
退職届と退職願の違いは、撤回できるか否か、効力の発揮時点が大きなポイント。しかし実際受理された側としてはその区別をはっきり理解しているとは言い難い。というのも、会社としてはどちらかを出された時点で「辞めたい人」「辞める人」と認識してしまうからだ。
法律的に効力や意味が違っても、上司の受け取り方・考え方に変化があるとは言えず、また退職届だろうが退職願だろうが、人事社内上の処理は一切変わることがない。
つまり、「どっちでもいい」ということ。辞めるあなたにとっては一大事かもしれないが、会社や人事、上司にとっては書類の違いについてそれほど重要なものとは捉えていない。
退職届は自主退職
退職届は「会社を辞めることは決定しています。」という意思表示が強いと言われている。会社の承認は必要なく、受理された時点で退職決定となるため撤回できない。従業員の一方的な自主退職として会社側に捉えられる。
出した時点で決定しているため効力も強く、意思が固まっているなら退職届を出しておくほうがいい。しかし「撤回一切不可」なんてことは相当あなたが嫌われていない限り無いのであまり気にしなくても大丈夫。
受理されなくても効力は変わらない
ドラマのように退職届を破られることは現場でほとんど起こり得ないが、受理を拒否されることは頻繁にある。
「考え直して欲しい」「異動や業務の割り振りを検討するから」と交渉されたりすることは日常茶飯事。そこであなた自身の気持が揺れるのであれば考え直せばいいが、次の仕事が決まっていたり、辞めることが明らかな場合は口頭で辞意を伝えても法律上の効力は持つとされている。
あくまで退職届や退職願というのは、社内上の管理書類に過ぎないので、口頭で辞意を伝えたあと「事務上の都合」により人事から退職届や退職願を後出しで求められることはよくある。
特に中小企業では退職届や退職願を必要としない場合も多い。
退職願は合意解約
退職願は会社へ退職することに対して承認をお願いするもの。役員や上司の承認が必要なため、合意解約と言われている。
承認するまで提出者は退職を撤回することもでき、会社側も引き止めることができる。そのため退職届より効力が弱く、会社側にまだ止められる余地が残ってしまう。
承認されるまで時間がかかる
退職するために承認が必要となる退職願だと、直属の上司にその権限が任されていればいいが、その場ではできず本社に回すことになると厄介だ。
直属の上司が認めてくれず、手元に保管されたままだといつまで経っても承認されない。そのため退職日が決まっているのであれば、受理された時点で退職となる退職届のほうが有効である。
提出して2週間以降ならいつでも退職できる
退職届を出しても「受け取れない、考え直してくれ」と言われる場合がある。また退職願を出してからなかなか承認してくれないこともある。
しかしどちらの場合でも、提出日から2週間以上経過しているのであれば、会社はその従業員を拘束できない(民法627条1項)。また就業規則で退職について定めていても、法律に反している場合は無効となる。
円満退社と行かない場合や、退職届や退職願をなかなか受け取ってもらえないときは、内容証明郵便で送ると確実だ。提出する内容・日時について郵便局が公的に証明してくれる。
退職届・退職願を出すときの注意点
退職届・退職願を出すタイミング
引継ぎや有給消化を考えて、繁忙期を避けた1ヶ月以上前までに出すようにしておこう。法律上では退職するタイミングは自由となっているものの、会社側のことも考慮しておくのがマナーである。
また閑散期だと上司とのアポイントも取りやすく、退職願の場合でも承認されやすい。
一般社員が「辞表」と書いて提出するのは間違い
退職届や退職願は就業先と労働契約を結んでいる方が使う言葉。
しかし辞表は、経営者や会社の役員、公務員が退職するときに使う言葉である。そのためそれ以外の方が使うのは誤り。内容に関しては退職届と同じだが、会社では使う方が限定される。
また公務員が辞めるときに辞表と書くのは、会社員と違い労働契約を結んで仕事をしていないからである。公務員の仕事は「任用行為」と言われ、行政から仕事を任されて働いている。そのため就業先と労働契約を結んでおらず、賃金や労働条件については全て国が法律によって定めている。
退職するときに会社から受け取る書類
- 健康保険被保険者資格喪失証明書
会社で加入していた健康保険を脱退したことの証明になる書類。国民健康保険に加入する際に必要になる。 - 離職票
失業給付を受給されるために必要な書類。転職先が決まっている場合は必要にはならないが、念のため受け取っておこう。 - 源泉徴収票
退職した年の確定申告時に必要になる。転職先の会社に提出して年末調整をしてもらうときに必要。 - 厚生年金基金加入員証
厚生年金基金に加入していた人に渡される証明となる書類で、年金請求時に必要。
会社に返却しないといけないもの
- 健康保険証
退職しても加入していた健康保険にそのまま加入する場合はコピーをとって返却する。 - 名刺
自分の名刺を含めて、その会社で関わってきた顧客の名刺全てを返却。 - 社員証や社章
会社の入館証や社章、バッジなども返却。
退職するときは退職届を出す
退職届 | 退職願 | |
性質 | 自主退職 | 合意解約 |
効力 | 即 | 承認後 |
撤回 | 不可 | 可 |
退職届・退職願のどちらを出しても辞めたい意思を伝えることには違いない。繰り返しになるが、自分としてもスッキリして辞めたいなら退職届を出しておこう。中には退職届と退職願を理解していない上司もおり、承認することの必要性を感じていないこともある。そのため中々承認されなくて、自分がうやむやな気持ちになってしまう。
また辞めるときでもマナーを守り、その後の手続きでなるべく退職した会社に連絡をとらないようにして、一切の未練も残らないようにしておこう。